
毎年恒例の全日本音楽教育研究会全国大会が、研究主題「育てよう 音楽と豊かに関わる子ども」のもと、九州・佐賀県にて開催された。本大会は「持続可能な全国大会」として「授業研究に特化した大会」を掲げ、原点に立ち返り、教師の本分である授業研究に重きが置かれた。本記事では、公開授業・指導助言者の先生方に小学校部会の各授業を総括していただいた。
令和7年度全日本音楽教育研究会全国大会佐賀大会
[小学校部会]公開授業
2025年10月23日 佐賀市立高木瀬小学校・若楠小学校・金立小学校
文:岩井智宏(桐蔭学園小学校主幹教諭)/津田正之(国立音楽大学教授)/原 クミ(福岡県教育庁福岡教育事務所主幹指導主事)
写真:編集部
佐賀市立高木瀬小学校・下平萌菜教諭
第1学年[歌唱]
かしがあらわすようすをおもいうかべながらうたおう
教材:『はる なつ あき ふゆ』(三浦真理作詞・作曲)
指導助言者:津田正之(国立音楽大学教授)
本題材は、A表現(1)歌唱のア、イ、ウ(イ)、〔共通事項〕(1)アの内容で構成され、児童の思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素を「旋律」「反復」として展開されました。本教材は、四季の様子を擬態語や擬態語を用いて描いた1~4番の歌詞、8小節のシンプルな旋律の曲です。「はる」「なつ」「あき」「ふゆ」の歌詞のイメージなどによって生みだされる豊かな曲想を感じ取って、声色や強弱の表現を工夫することにより、思いに合った歌唱表現の実現につなげることができます。
大会では、全3時間扱いの第2時が公開されました。前時に1番「はる」の歌い方を考えた学習をもとに、2番「なつ」、3番「あき」、4番「ふゆ」をどんな感じで歌いたいか、そのためにどのような工夫ができるか(声の表現、強弱の変化など)を、学級全体、グループで実際に歌い試しながら話し合い、いくつかのグループが全体で発表して学び合う学習が展開されました。本題材の実践から、全体で共有したい学びは次の点です。
第一は、国語や図画工作の学習と関連させながら、1番から4番まで季節の詩を丁寧に音読したり、詩のイメージを絵で表したり、体の動きを取り入れたりして、五感を働かせながら曲の特徴を把握できるようにしたことです。そのような環境や体験が、「明るく元気な声で歌おう」「冷たい感じが出るように少し弱く歌ってみよう」など、音楽表現の豊かな思いと、その思いに沿って歌いたいという意欲に満ちた児童の姿につながっていました。協議会では、入学後半年の児童に言語で表すことをどこまで求めるのか、また、グループの組織の仕方などについて、生産的な意見交流が見られました。
第二は、教師が自ら自分の声で歌い、学級全体での学習とグループでの学習の往還を図るとともに、児童の表現を丁寧に価値付け、全体で試してみるなど、児童の学びを豊かにコーディネイトしていたことです。授業者の下平先生は、音楽を専門教科としているわけではありませんが、研究授業では、児童一人一人をよく見取り、よさを価値付けながら、みんなで楽しく豊かな表現を実現しようとする熱い思いが伝わってきました。
第三は、本題材の学習のゴールとして『はる なつ あき ふゆ』の発表会を開催し、その動画を保護者に視聴してもらうようにしたことです。入学間もない1年生にとって、音楽の授業の学びの姿を保護者と共有できることは大きな意味をもちます。保護者に自分の表現を聴いてもらいたいという児童の思いと、児童の表現活動の姿に対する保護者からのあたたかい評価が、音楽を学ぶことのよさの実感と、さらなる音楽の学びの意欲へとつながることでしょう。(津田正之)
佐賀市立高木瀬小学校・高田穂々乃教諭
第6学年[歌唱・鑑賞]
日本に古くからある音楽のよさを探ろう
教材:『越天楽今様』(慈鎮和尚作歌/日本古謡)/雅楽『越天楽』(日本古曲)
指導助言者:津田正之(国立音楽大学教授)
本題材は、A表現(1)歌唱のア、イ、ウ(イ)、B鑑賞(1)鑑賞のア、イ、〔共通事項〕⑴アの内容で構成され、児童の思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素を「音色」「旋律」「速度」として展開されました。社会科で学ぶ平安時代の文化や生活などと関わらせながら、歌唱共通教材『越天楽今様』(歌唱)と、雅楽『越天楽』(鑑賞)とを往還的に学習することで、それぞれ学びを深耕し、日本に古くから伝わる音楽に親しみ、その価値を考えることができる題材構成となっています。
大会では、全4時間扱いの第3時「鑑賞」の授業が公開されました。第一時の『越天楽今様』の歌唱、第2時の雅楽『越天楽』の鑑賞から、曲の背景も含めた『越天楽』の特徴を学び、本時では、当時の貴族のくらしと音楽的な特徴を結び付けながら、『越天楽』のよさを見つける学習が展開されました。本題材の実践から、全体で共有したい学びは次の点です。
第一は、歌唱と鑑賞との有機的な関連を図るとともに、社会科の学習とも関わらせて、児童が学びの内容とその関連を自覚できる精緻な題材構成であったことです。授業者の意図は、丁寧なワークシートの内容や会場の掲示物に表れていました。これらのことが、個とグループでの雅楽の特徴についての学び、それを踏まえたこの曲のよさの考えの生成につながっていました。協議では、前時の学習との関連の意識付けや、ワークシートの内容の精査などについて、生産的な意見交流が見られました。
第二は、児童が、個として、協働して思考・判断する場が確保され、その往還があったこと、そして、教師が児童の思考に寄り添い、発言したことを肯定的に評価しようとする姿勢に満ちていたことです。授業者の高田先生が、チームの先生方と「雅楽」に向き合い、学んできた蓄積の豊かさを感じました。協議会では、常に雅楽『越天楽』の音楽が流れる場のよさを共有しつつ、肝となる音楽鑑賞の場の充実についても意見が交わされました。
第三は、本題材の振り返りの場面で、「1000年以上も前の音楽が、どうして現在の私たちにも伝わっているのか」という問いを設定し、これまでの学習を踏まえて考え、話し合う場面を設定していたことです。これは、人々の生活や社会において音楽が存在し、継承・発展してきたこと、すなわち、音楽を学ぶ意義に関わる本質的な問いです。この問いは、『越天楽今様』や雅楽『越天楽』についての豊かな学びの蓄積があってこそ成り立つものです。この問いに関して、児童からどのような意見が生まれたのか、ぜひ全国の先生方に報告してほしいと思います。(津田正之)
佐賀市立若楠小学校・花房文乃教諭
第1学年[鑑賞]
ようすをおもいうかべて おんがくをきこう
教材:『おどるこねこ』『そりすべり』(アンダソン作曲)
指導助言者:岩井智宏(桐蔭学園小学校主幹教諭)
本題材は、B表現(1)鑑賞のア、イ、〔共通事項〕(1)アの内容で構成され、児童の思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素を「音色」「変化」として構成され、私は全2時間中の第1時を拝見しました。
本時は、教師の軽快なピアノに対してさまざまな動物をイメージしていくテンポのよい常時活動から始まり、子どもと教師の信頼関係の深さがしっかり伝わってくるやりとりの中、本活動の鑑賞教材『おどるこねこ』へとつながっていきました。
題材の第1時ということもあり、初めて聴く曲に興味津々の子どもたちは、『おどるこねこ』を聴いてさまざまなイメージを口に出していました。子どもたちの音楽をイメージとつなげて話す姿は普段から花房先生が子どもたちの意見を大切に授業されている様子が伝わってきました。その中で、子どもたちからなかなか「ねこ」という言葉は出てこなかったことが本授業で一つポイントになったように感じます。
われわれ教師には、子どもたちから「ねこ」を引き出したいという思いが芽生えますが、それぞれの子どもが音楽を聴いて浮んだイメージを一つにまとめていくのは非常に難しいことです。そのため、子どもたち一人一人が感じた自由なイメージを軸にして、「どうしてその動物だと感じたの?」という発問を軸に、子どもたちに声を掛けると、「なんか、鳴き声があった」「パーオンって聴こえた」「なんか途中から動物が変わった」などの子どもたちのつぶやきから旋律の特徴や音色、変化に結び付けることもできたようにも感じました。そして、最後に「ちなみにアンダソンさんは『おどるこねこ』って名前を付けたんだよ」と子どもたちに伝えたら、自分とはまた異なる価値感に触れ、子どもたちが新たな価値を見いだして授業を締めくくることにもつなげられるかもしれません。(岩井智宏)
佐賀市立若楠小学校・天野絵美教諭
第4学年[歌唱]
思いを音楽で表そう~エピソードと思いを歌に繋げて~
教材:『ありがとうの言葉にのせて』(天野絵美作詞・作曲)
指導助言者:岩井智宏(桐蔭学園小学校主幹教諭)
本題材は、A表現(1)歌唱のア、イ、ウ(イ)、〔共通事項〕(1)アの内容で構成され、児童の思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素を「旋律」「変化」として構成され、私は全3時間中の第3時を拝見しました。
本題材で扱う教材は授業者である天野絵美先生自作の素晴らしい合唱曲です。クラスにはみんなで楽しく歌うという文化がしっかりと育まれており、非常に前向きな授業展開でした。
音楽の知識的な要素(音符、リズム)などを用いたテンポよい常時活動から始まり、本活動である歌唱活動へつながっていきます。本時は、旋律や変化に気を付けて、伝えたいことが相手に届く歌い方を考えることをねらいとした学習で、子どもたちはさまざまに考えを巡らせていました。すでに心から歌い上げる文化、そして考える文化が構築されている子どもたちの姿が素晴らしく、その姿から感動をいただいた参加者も多かったのではないでしょうか。次は、子どもたち一つ一つの考えをしっかりと歌唱表現へ生かし、技能を伴った音楽の変容を子どもたちがさらに実感することができたら「音楽で学ぶ」という意義がより強まっていくように感じました。
●両先生方へ
今回、前向きに学ぶ子どもたち、そしてその姿に全力で寄り添う二人の先生方の授業を拝見し、私自身がたくさん刺激をいただき、学ばせていただきました。そんな子どもたちとお二人の先生に心からの感謝を伝えたいです。(岩井智宏)
佐賀市立金立小学校・牛島風香教諭
第4学年[器楽]
いろいろな楽器が重なる豊かな響きを味わいながら、表現を工夫して合奏しよう
教材:『茶色の小びん』(ジョセフ・ウィナー作曲)
指導助言者:原 クミ(福岡県教育庁福岡教育事務所主幹指導主事)
題材「いろいろな楽器が重なる響きを味わいながら、表現を工夫して合奏しよう」は、ジョセフ・ウィナー作曲の『茶色の小びん』を教材とした実践です。学習指導要領の内容は、A表現(2)器楽ア、イ(ア)(イ)、ウ(イ)(ウ)、〔共通事項〕(1)アであり、思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素は、「音色」「音楽の縦と横との関係」として、子どもが音や音楽と豊かにかかわる姿を目指し、次のような学習が展開されました。
①ジャズの「茶色の小びん」と出会い、興味や憧れをもつところから学びがスタートするよう楽曲との出会わせ方を工夫し、器楽合奏への意欲を高める。
②題材前半では、全員で各パートを演奏することで役割を捉えるとともに、その後、自分の担当するパートの役割に応じて、どのように演奏すればよいのかについて思いや意図をもつことができるよう、全体での合奏とパート毎の演奏をバランス良く設定する。
③題材後半では、思いや意図に合った表現をするために必要な技能を高めるとともに、友達と協働して演奏するよさや楽しさを味わうことができるよう、パート毎の聴き合いや全体での聴き合いを繰り返して、表現を高め合う。
このような活動の中で、子ども自身が、音や音楽との関わりを豊かにしていくために、次のような支援が講じられていました。
・思いや意図に合う表現にするための工夫について、子どもが考えた工夫点を全体で共有し、教師や児童の実際の演奏を聴いて確かめるなど、言語活動と音楽活動の往還を図るようにしたこと。
・自分たちのパートの表現の工夫を確かめるために、ICT機器の録音機能を活用したり、交互に聴き合ったりする場を設定したこと。
・毎時間における学習内容(表現の工夫)を拡大楽譜やパート譜に書き込み、学びの積み上げを確認することができるようにしたこと。また、毎時間の一人一人の振り返りを端末内に、記録として残すことができるようにしたこと。
本題材の学習を通して、授業の中だけでなく、朝の時間や昼休みの時間に自主的に友達と練習する姿が見られるようになっています。大会当日の授業でも、音や音楽とかかわること自体の楽しさを味わうと同時に、友達と「音が合う」ことの楽しさや喜びを味わっている姿がありました。器楽合奏に取り組む場合には、集団の中で個が埋没するのではないかとの懸念も指摘されますが、今回の実践では、子どもが、どの楽器にも役割があることを捉え、自分の担当するパートの役割に応じて、どのように演奏すればよいのかについて思いや意図を明確にもって演奏する姿があり、本実践の価値を表しているものと言えるでしょう。(原 クミ)
佐賀市立金立小学校・佐々木 巧教諭
第5学年[音楽づくり]
金立鉦浮立のおはやしの音楽をつくろう
教材:金立鉦浮立
指導助言者:原 クミ(福岡県教育庁福岡教育事務所主幹指導主事)
題材「金立鉦浮立のおはやしの音楽をつくろう」は、校区である金立町に伝わる民俗芸能である鉦浮立を教材とした実践です。「金立鉦浮立」は、一時期、途絶えていたこともあり、浮立で用いられていたおはやしの音源や採譜などが十分ではなく、残された資料や保存会の方々のお話をもとにおはやしの旋律をつくり、文化を継承、発展する一人としての自覚を育むことができる題材です。
学習指導要領の内容は、A表現(3)音楽づくりア(ア)(イ)、イ(ア)(イ)、ウ(ア)(イ)、〔共通事項〕(1)アであり、思考・判断のよりどころとなる主な音楽を形づくっている要素を「旋律」「反復」「変化」として、子どもが音や音楽と豊かにかかわる姿を目指し、次のような学習活動が展開されました。
①「金立鉦浮立」の音楽を聴いたり動画を視聴したりして、「金立鉦浮立」への興味・関心をもつとともに、おはやしの旋律をつくる目的をもつことができるように総合的な学習の時間で学んだこととの関連を図った。
②題材の前半では、即興的な音楽づくりの活動を行い、いろいろな音の響きやその組み合わせ、五音のつなげ方をさまざまに試しながら、それらが生み出すよさや面白さを感じ取るとともに、さまざまな発想を得ることができるようにし、その後の、おはやしの旋律づくりの活動につなげるようにした。【音楽づくり(ア)】
③題材の後半では、「金立鉦浮立」の音やフレーズのつなげ方の特徴や反復、変化を聴き取り、一人一人がつくった旋律をグループの友達と組み合わせ、どのようにまとまりを意識した音楽をつくるかについて思いや意図をもって、鉦浮立のおはやしの旋律をつくるようにした。【音楽づくり(イ)】
④つくったおはやしの音楽は、総合的な学習の時間に、金立鉦浮立保存会の方々に聴いてもらい、自分たちのおはやしづくりの価値を捉えることができるようにした。
このような活動の中で、子どもが音や音楽とのかかわりを豊かにするために、次のような手立てが講じられていました。
・読譜や演奏の技能による困難さが音楽づくりの活動に影響しないように、子どもが選択した五音を記録するための一人一台端末を活用したワークシートの開発
・鍵盤ハーモニカ、リコーダー、ミニグロッケン(鍵盤を五音だけにしたもの)の中から、子どもが自分の技能に応じて選択することができる楽器の設定
・即興的な音楽づくりに取り組むための「金立鉦浮立」の特徴に基づく条件の設定
公開授業では、子どもたち一人一人が、実際に音を奏で、確かめながら何度も旋律づくりに取り組む姿がありました。本題材における「金立鉦浮立」のおはやしづくりの活動によって、子どもたちは生活や社会における音楽の価値や役割を捉えることができたであろうと拝察します。また、このおはやしづくりの過程において、地域の民俗芸能を継承・発展する一人としての自覚を生み出す学びにもなっていたことでしょう。(原 クミ)
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