音楽教師力アップ
 

誰もが安心して過ごせる音空間をめざして

難聴・聴覚過敏の子どもに寄り添う音楽室の環境づくり

音楽室が楽器の音でカオス状態になった経験はありませんか?
難聴や聴覚過敏の子どもをはじめ、誰もが安心して過ごせる「音空間」をどうつくるか。元小学校主幹教諭の西沢久実先生が、耳鼻咽喉科医の上原奈津美先生の助言も交え、座席や隊形の工夫、クラス全員で共有するルールなど具体的な取り組みを紹介します。

文:西沢久実(元 神戸市立神戸祇園小学校主幹教諭)
協力:上原奈津美(神戸大学医学部附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科准教授)

楽器の音が、子どもたちの耳の負担になっていませんか?

私は、難聴学級の子どもが通常学級に交流する小学校音楽科の授業を9年間担当しました。この経験が、「誰もが安心して過ごせる音空間」の大切さを再認識する機会となりました。

聴覚障がいや聴覚過敏の症状がある子どもにとって、楽器の音は、大きな負担になることがあります。こうした特性のある子どもたちに応じた音空間をつくるためには、周りの子どもたちとの共通理解が必須です。その結果、改善された音空間は、周りの子どもたちにもよい影響を及ぼし、結果、誰もが安心して過ごせる音空間になることを実感しています。

誰もが安心して過ごせる音空間とは?

日頃から、難聴学級の子どもたちを共に見守りご助言いただいている、神戸大学医学部附属病院准教授・上原奈津美さんにお話を伺いました。

Q1 聴覚障がいのある子どもは、音をどのように捉えていますか?

上原:難聴の程度は、軽度・中度・高度とさまざまで、人工内耳や補聴器、補聴援助システム等の聴覚補償をしますが、聴こえ方には個人差があります。音は聴こえていても、正しい文章として聴き取れず、内容が伝わらない場合もあります。また、心地よい音・不快な音の感じ取り方では、プリントを配るときに生じるカサカサという音が苦手など、難聴のタイプが多様であることを理解することが重要です。

Q2 聴覚障がいのある子どもたちが安心して過ごせる音空間をつくるために、指導者が最も配慮すべき点は何でしょうか?

上原:聴覚補償をすれば、健常児と同じように聴こえるということではありません。一人一人が聴き取りやすい音の強さや高さが違うこと、複数の音が同時に鳴ると聴き取りにくいこと、補聴援助システムによる音の入りすぎがあること等に配慮し、子どもの様子を確かめながら、その場に応じて支援していくことが重要です。

Q3 耳の健康を守り、誰もが安心して過ごせる音空間をつくるために、子どもたちにどのような指導が必要だとお考えですか?

上原:友達の耳元で楽器を強い音で演奏すると、一瞬で友達の耳を傷つけてしまいます。子どもたちには、耳の健康を守るための楽器の使い方やマナーについて指導することが必要です。また、ヘッドホンやイヤホンで、長時間、大きな音を聴き続けると耳の機能が劣化するリスクが高くなります。この場合は、長年に渡って徐々に耳が聞こえにくくなり、傷ついた細胞は元通りにはなりません。家庭でのヘッドホンやイヤホンの使用を含めて、適切な音量や使用時間を守るように言葉がけをお願いします。日本耳鼻咽喉科頸頭部外科学会のホームページに詳細が掲載されています。

誰もが安心して過ごせる音空間を目指した取り組み

子どもたちの聴こえ方は一人一人違います。そうした違いを踏まえて、これまで行ってきた取り組みの一部を紹介いたします。

聴覚障がいや聴覚過敏の症状がある子どもへの配慮・支援

①座席位置の配慮

・指導者の口元が見え、友達の動きも把握しやすい席を試して決めます。
・生活音(エアコンの音・窓の外の音・廊下の足音など)が聴こえにくい席をいくつか提案し、本人の意向を聞いて決めます。
・個別の支援者が同席する場合は、支援者とともに学習が進めやすい位置を考慮します。

②補聴援助システム及びイヤーマフ使用時の配慮

・補聴援助システム(ロジャータッチスクリーンマイクなど)を使用すると、指導者が大きな声を出さなくても、自然な話し方で伝わります。補聴援助システムの正しい取り扱いを職員間で共通理解することが重要です。

「ロジャータッチスクリーンマイク3」画像提供:フォナック補聴器(ソノヴァ・ジャパン株式会社)

・イヤーマフを使用する子どもは、自分で判断して即座に取り出して使えるように、手提げ袋にイヤーマフを準備するようにします。

③拍に合わせて演奏するための支援

拍を刻む音を聴いて合わせるのではなく、メトロノームの振り子や手の動きを見て演奏するよう声かけをします。発展として、メトロノームを使ったクラスの常時活動を取り入れることにより、速度も意識できるようになります。

④ 担当するパートに集中して演奏するための支援

・個人学習ができるようなパートごとの音源を作成し、必要に応じて、教材として使えるようにします。
・個別の支援者と一緒に学習できる静かな環境を整備し、必要に応じて、場所移動ができるようにします。

聴覚障がいや聴覚過敏の症状がある児童への配慮・支援をクラス全体に広げる

①学習場面に応じた学習隊形の工夫

・グループ合奏の学習内容に応じて、教室の外側を向く学習隊形をとり、他のグループの音や動きを遠ざけ、自分たちの学習に集中できるようにします。また、グループごとに、移動式ホワイトボードを設置し視覚的援助もします。

教室の外側を向く学習隊形

②楽器を使った学習におけるルールをクラス全員で共有 

〔ルールの例〕
・手のサインを見て、すみやかに音を止める。
・楽器を大切に扱い、無駄な音が出ないように気を付ける。
・一人一人が「どのような音色で表したいか」など、思いをもって奏でる。
・リズム唱や階名唱→歌いながら運指を確認→楽器で演奏というような手順を踏む。
・学習内容に応じて、音を届ける方向を考え、学習隊形と音量を決める。
・アドバイスタイムでは、順番に演奏し、相手を見て聴き合う。

最後までお読みいただきありがとうございます。少しでもお役に立ちましたでしょうか。目の前の子どもたちの実態や学校の実情に応じて、アレンジしてご活用いただければと思います。「誰もが安心して過ごせる音空間」が広がることを心より願っております。

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