リポート
 

古典芸能の手法からラップやオリジナルソングまで!
生徒が主役の音楽劇づくり

渋谷区立渋谷本町学園中学校「音楽フェスタ」リポート

オペラ、バレエ、演劇といった舞台芸術が上演される新国立劇場のすぐ近くに位置する、渋谷区立渋谷本町学園中学校。7月中旬、同校で「音楽フェスタ」が開催された。一昨年までの「合唱コンクール」から一変、昨年は「ラップ」、そして今年生徒たちが挑んだのはなんと「音楽劇」! 音楽科の今井由喜先生にとっても、生徒や他の教員にとっても初挑戦となる取り組みを取材した。

渋谷区立渋谷本町学園中学校「音楽フェスタ」
2026年7月17日 同校体育館

取材・文・写真:編集部

生徒の「やりたい!」から始まった新たな挑戦

音楽フェスタ当日、会場である体育館の隅には楽器や大道具が並び、衣装や小道具を手に7~9年生の生徒たちが集まってきた。これから始まる舞台に緊張しながらも、初めての音楽劇の発表に心躍らせている様子が伺える。

今回披露された音楽劇は、7年生は「学校生活」、8年生は「アクション」、9年生は「人生」というテーマに沿って、クラスごとに台本から音楽、演出まで、生徒同士、そして担任が知恵を出し合ってつくり上げたものだ。

この「音楽劇をつくる」という取り組みは、実は生徒たちの希望から生まれたものである。従来の合唱コンクールから大転換した昨年は、創作ラップを含む舞台パフォーマンスに挑戦した。新しいことへの挑戦を経験した生徒たちだからこそ、「クラスでオリジナルの音楽劇をつくる」という次なる目標が生まれ、その提案が職員会議で承認されたのだ。この背景には、生徒の意見を柔軟に汲み取る同校の校風もあるという。

小道具や大道具の他、スクリーンも活用して物語の世界観を演出。中には、ナレーターを設ける工夫をしていたクラスも

今井先生自身、音楽劇づくりの指導経験はなかったが、「生徒がやりたいと言っているのだからきっとできる!」と楽観的に捉えると同時に、音楽科としては以下の理由から「絶好の機会」だと感じたそう。

・前年度に取り組んだ「ラップ」や「謡(うたい)」を劇中に組み込めること
・歌舞伎や能楽、文楽、オペラといった鑑賞学習と自然に関連づけられること
・芝居に効果的な音楽を生徒自身が考えることで、日頃の授業や音楽経験が生かされ、指導の真価が試されること

今回の音楽劇には、こうした音楽科としてのねらいや期待も込められている。劇中で使う音楽は生徒による創作を基本としたが、特に歌についてはつくるのが難しい学年もあるため、既存の曲を使用することも可とした。その際、「既存の曲を使う場合は、その曲に対して敬意のある使い方をする」という方針が実行委員会で定められたという。音楽を使う側として他者の表現に対する敬意(リスペクト)を意識することは、創作や表現において欠かせない大切な気づきと言える。

「学活」と「音楽科」の連携

今回の音楽劇は「新学期の学級づくり」に資するという目的も含んでいるため、制作・練習には主に学級活動(学活)の時間(各クラス6時間+舞台練習40〜50分程度)があてられた。劇中で用いられる歌やBGM、効果音などの音楽面については、今井先生がガイダンスや音楽の授業の中で生徒たちにヒントを授けていた。

学活で実施されたガイダンスでは、まず「音楽劇=音楽+劇(+踊り)」とシンプルに捉えさせ、ACジャパンの「寛容ラップ」CM(60秒版)のセリフ・ラップ・歌の構成を紐解くことで、「台詞、語り、歌の要素があり、一番伝えたいメッセージのところで歌う」という音楽劇の演出構造を提示した。続けて、能、歌舞伎、オペラ、ミュージカル、京劇などの舞台芸術を例示し、谷川俊太郎の詩(『ののはな』『いるか』等)やわらべ歌を謡調(大ノリ•中ノリ•平ノリ)にしたり、リズムや抑揚をつけて読んだりして、言葉を音声にして楽しむ感覚を育んだ。

こうしたガイダンスに加え、今井先生は各学年のテーマに応じた具体的なヒントを提示した。例えば、異国的な雰囲気を出すための五音音階や旋法、アクション場面における歌舞伎の「ツケ」、登場人物や場面を印象付ける「ライトモティーフ」など、生徒がアイデアを形にし、表現を深めるためのヒントをタイムリーに伝えた。

ジャンルを超えたミックス

当日の舞台では各クラスが多彩なパフォーマンスを繰り広げた。「学校生活」がテーマの7年生は、授業や給食、休み時間、帰りの会といった日常の様子を生き生きと描き出してみせた。

恋愛模様を描いたクラスは、見せ場となる告白場面でダンスやラップに乗せて二人の思いを堂々と表現した。これはオペラでいうところの、物語を進める簡素な「レチタティーヴォ」と、ドラマチックに感情を歌い上げる「アリア」による対比を思わせる演出だ。セリフ主体の展開から一転、言葉だけでは表現しきれない思いを音楽に乗せることで、登場人物の感情が観客へダイレクトに伝わる、実に効果的な見せ方であった。他の場面では、校歌斉唱やリコーダーによる『威風堂々』の演奏など、音楽の授業で習ったことを生かした工夫が見られ、最後は大塚愛の『さくらんぼ』を元気に歌って物語を締めくくった。生徒たちが「この場面に使いたい」と感じた音楽を直感的に組み合わせ、等身大のエネルギーがあふれ出ていた。

7年A組の発表「恋愛告白部」。ラップに乗せて思いを語る

続く8年生の発表は、BGMを自作するなど、さらなる表現の工夫が見られた。「アクション」がテーマの8年生に、今井先生は前述の通り歌舞伎の「ツケ」を紹介した。舞台上手で木を板に打ち付けて俳優の演技を強調させる演出法だが、あるクラスはそのアイデアを生かして、舞台袖で打楽器を用いて効果音をつくり出し、剣を手に戦うアクションシーンを臨場感たっぷりに表現してみせた。フィナーレでは、どのクラスも全員が舞台に出てきて大合唱。清水翔太の『PUZZLE』やAIの『Story』など、物語の内容に合った曲を選び、ミュージカルのエンディングのような盛り上がりを見せて幕を閉じた。

8年B組の発表「The ミュードレコージック」。フィナーレではクラス全員が舞台に集い、歌声を響かせる

等身大の思いあふれるオリジナルソング

テーマ「人生」に挑んだ最高学年の9年生は、どのクラスも音楽の工夫はもちろんのこと、台本がよく練り上げられていた。あるクラスが挑戦したのは、ゲームか勉強か、恋愛、大学受験といった人生の分岐点に時間を戻し、人生をやり直すパラレルワールドを描いた物語だ。主人公はその時々の自分の選択によって将来が大きく変わることを体験するが、「人生に失敗はなく、未来を変えるのは自分自身である」と気づいていく。

その締めくくりとなるラストソングは、生徒たちによる完全自作であった。自分たちの手で言葉を選び、旋律を紡ぎ出した楽曲からは、「困難があっても乗り越えて、信じて未来に進んでいきたい」というメッセージがストレートに伝わってきた。9年生だからこそ抱く未来への希望や不安があふれる舞台に、会場から惜しみない拍手が送られた。

9年BF組の発表「めぐループ~Lucky manの歩み~」。舞台のみでなく客席も使っての演出に、会場は大きな歓声に包まれた

総合芸術を創り上げる経験がもたらすもの

一連の活動を通して、生徒たちは劇における音楽の役割を体感しながら、「音楽劇」という総合芸術を創り上げた。今井先生は「音楽劇をつくる学習と音楽科の授業が相互によい関係を保って進んでいく確信をもつことができた」と振り返る。

事後アンケートでは、特に7年生から「どんなに面白い芝居でも、音楽の要素が薄いと音楽劇としてはダメなんだ。来年はもっと音楽の要素を取り入れたい」といった振り返りが多く見られたそう。単なる行事の達成感にとどまらず、音楽の役割や重要性への意識が芽生えたことは、音楽科としても大きな成果と言えるだろう。

有志演目で生徒と共に和太鼓を演奏する今井由喜主任教諭。季刊誌『教育音楽 夏号 2026.07』での作曲家・藤倉大氏との対談から着想を得て、客席を囲むように太鼓を配置し、音の遠近感や方向感を味わう即興演奏に挑戦。さらに美術科教員との協働により視覚的な合図を取り入れるなど、空間全体を生かした表現を試みた

有志のライブ発表。シブヤ未来科の授業(My探究)から生まれたバンドで結成2年目

生徒や保護者ら、観客も手拍子や足拍子で一緒になって盛り上がる!

この日ゲストとして招かれたのは、文教大学の近藤真子准教授。各クラスに講評を伝える中で、「何でもAIでできてしまう時代に、一つ一つ丁寧に自分たちで台詞や音楽を手づくりする経験は大事なこと」とのメッセージが贈られた

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