リポート
 

和合亮一/新実徳英《つぶてソング》が深める
東日本大震災の被災地との絆                 

第13回「つぶてソングの集い」レポート

《つぶてソング》と名づけられた12の歌は、2011年の東日本大震災、福島第一原発事故の直後(3月16日)から福島の詩人・和合亮一さんがツイッターで発信した「詩の礫」に作曲家・新実徳英さんが音楽を付けたもの。この《つぶてソング》を歌い・奏でる13回目の「集い」が、福島県南相馬市にて開催されました。

第13回 つぶてソングの集い
第2章・希望を奏でる集い
2025年4月20日 南相馬市民文化会館ゆめはっと 大ホール


リポート:原田博之(宮城教育大学教授)
写真提供「つぶてソングの集い」プロジェクト

「つぶてソングの集い」とは

東日本大震災から14年目を迎えた春は暖かい日が続き、一気に開いた桜が私たちの心を和ませてくれました。穏やかな陽射しの注ぐ4月20日の日曜日、福島県の南相馬市民文化会館ゆめはっと大ホールで、「第13回つぶてソングの集い〜第2章・希望を奏でる集い〜」が開催されました。

《つぶてソング》とは、福島県の高校教諭であり詩人の和合亮一さんが震災の発生直後にツイッターで発信し続けた『詩の(つぶて)』に、作曲家の新実徳英さんが作曲しインターネット上で配信した12曲の歌曲であり、《つぶてソング》はその後合唱曲となり、全国の合唱愛好家や演奏家により歌い継がれてきました。

音楽で被災地の人たちに思いを馳せ 絆を深めるために

「つぶてソングの集い」は、《つぶてソング》を通して被災地の人たちに思いを馳せ、絆を深めることを目的として、震災後から継続して開催されている演奏会で、2011年10月に東京都杉並区で第1回の集いが開催されて以降、福島県では郡山市、南相馬市、福島市、宮城県では名取市、東京都では杉並区、中央区晴海で開催されました。

第13回となる今回の集いは、南相馬市での4回目の開催となります。筆者は震災後の数年間、今回出演した南相馬市のゆめはっと合唱団でボイストレーナーを務めた経験があります。南相馬市は震災で津波による甚大な被害を受けたばかりでなく、原発事故により大変な苦労を強いられてきた地域ですが、合唱団の方たちはいつも明るく前向きに合唱に取り組み、その姿に寄り添うことのできた時間は、筆者にとってかけがえのない時間でした。演奏会当日は、運営にも携わる合唱団の方たちが温かく迎えてくださり、久しぶりの再会を喜びました。

ゆめはっと合唱団 指揮:新実徳英/ 鷹羽弘晃(ピアノ)

作曲者自身の指揮で 合唱団が力強い演奏を披露

今回の集いには、南相馬市からゆめはっと合唱団と、福島市からF.M.C.混声合唱団が、東京都から、いらか会合唱団&男声合唱団TOKEIと、桐朋学園芸術短期大学声楽アンサンブル&女声合唱団「桐」、有志合同合唱団が参加。それに、東京の7名と地元の7名による器楽アンサンブルと、新実徳英さんの指揮、和合亮一さんによる朗読、集いの代表であるピアニストの浜中康子さんと八幡顕光さんによるバロックダンス、鷹羽弘晃さんと島内亜津子さんのピアノ、小林美恵さんのヴァイオリン、佐藤淳一さんのテノールが加わりました。司会を務めた伊藤誠さんは、後半の司会をアナウンサーの三吉梨香さんにバトンタッチすると、自らヴァイオリン演奏も披露しました。多彩な関係者が協力して互いに支え合いながら、今年の集いをつくり上げていったのです。

東京と現地で事前に開催されたワークショップでは、演奏曲の作曲者である新実さんと声楽家の松井康司さんによる指導が行なわれ、現地の参加者も第一線で活躍する指導者からの質の高い指導を経て、演奏会で聴いたゆめはっと合唱団の歌声が、以前にも増して明るくホールいっぱいに響いていたことが印象的でした。

終演後に団員に話を聞いたところ、ワークショップで松井さんから発声指導を受けたことで、合唱団の歌声が伸びやかに変わったと、充実感あふれる笑顔で話してくれました。そして参加者は、演奏曲を作曲した新実さんから作品について直接学ぶことができ、新実さんの流れるような指揮の下、演奏者たちは温かさに満ちた、時に詩のメッセージを力強く伝える演奏を披露し、会場に集う人たちの心を慰める時間に。

合唱と器楽による演奏、独唱、朗読と、さまざまな形態で《つぶてソング》をはじめとする作品が披露され、充実した会をつくり上げていきました。

《つぶてソング》の作曲者・新実徳英さんによるリハーサル

バロックダンスも登場し 希望を奏でる第2章の幕開け

集いの冒頭で司会の伊藤誠さんが読み上げた今回の副題は「第2章・希望を奏でる集い」。新実さんは、震災当時の《つぶてソング》発表の場を再現しつつ自らの歌声も披露しましたが、そこでウクライナやパレスチナの現状について触れ、震災当時と今回の集いでは文脈が変わり、今こそどう生きるのか、平和への想いをそこに込めるのだと会場に語りかけました。

オープニングでは《つぶてソング》より『あなたはどこに』を器楽アンサンブルで演奏 新実徳英(指揮)/永井由比(フルート)/阿久津紋子(クラリネット)/中村孝志(トランペット)/村田厚生(トロンボーン)/小林美恵(ヴァイオリン)/大軒由敬(チェロ)/浜中康子(ピアノ)

新実さんによる『あなたはどこに』の独唱 浜中康子(ピアノ)

また、今回の集いでは、13回目にして初めてバロックダンスとバレエを披露。「つぶてソングの集い」の代表を務める浜中康子さんは、ピアニストでありバロックダンスの専門家でもあります。

会場のスクリーンにヴェルサイユ宮殿の鏡の間が投影され、衣装を着けた浜中さんと八幡さんが舞曲の音楽に乗せてバロックダンスを披露すると、会場から感嘆のため息と大きな拍手が起こりました。今回の企画は、ゆめはっと合唱団からの「前に進む、明るい集いを!」という希望のもとに実現したそうです。

続いて、『教育音楽』の付録楽譜から世に出た作品で、新実さんの音楽に谷川雁さんが詞を付してつくられた《白いうた 青いうた》から、舞曲由来の音楽に乗せたダンスも披露されました。ふだん何気なく接している音楽の背景には歴史や文化があり、ただ耳のみを通して音楽を聴くだけでなく、音楽の総合的な面を味わうことのできる貴重な機会となりました。

浜中康子さん・八幡顕光さんによるバロックダンス

バロックダンスとともに奏された小林美恵さんによるヴァイオリン演奏 島内亜津子(ピアノ)

和合亮一さんが、20代を過ごした南相馬市と浜通りのことを思ってこれからも詩を書いていきたい、「命の樹」の姿を見せてほしいと会場に語りかけたのち、ワークショップ参加者を加えた125名による合同合唱で、つぶてソング『重なり合う手と手』が演奏され、最後は和合さんの朗読を受け、器楽アンサンブルを加えた総勢140名で、「つぶてソングの集い」の第10回記念歌『希望のうた』が高らかに演奏されました。

音楽を通して被災地に思いを馳せ、絆を深めることから始まった「つぶてソングの集い」は、希望を奏でる集いとして、これからも関わる多くの人たちに力を与え続けることでしょう。

和合亮一さんが『希望のうた』の歌詞を朗読し、フィナーレの合同演奏へ

F.M.C.混声合唱団 指揮:高野洋子

桐朋学園芸術短期大学声楽アンサンブル&女声合唱団「桐」 指揮:松井康司/鷹羽弘晃(ピアノ)

いらか会合唱団&男声合唱団TOKEI 指揮:清水 昭/鷹羽弘晃(ピアノ)

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