リポート
 

大学センターが探究するインクルーシブな音楽の場づくり

滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター「おとさぽ」のコンサート

誰もが楽しめるインクルーシブなコンサートが増えつつある中で、それを大学センターがプロデュースする取り組みが滋賀県で行われています。滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター(愛称:おとさぽ)は、障がい児者を中心とした音楽教育プログラムの提供や、音楽活動の支援を行うために設立された全国でも珍しい大学センターです。思わず身体が動いたり、声が出たりする——そうした自然な反応を大切に、誰もが参加できる〈ひろば〉のような音楽空間をつくるには? その仕掛けと工夫に迫ります。

文化庁 令和7年度 障害者等による文化芸術活動推進事業
滋賀大学 おとさぽファミリーコンサート「おんがくの空へとびだそう!」
2026年2月1日 栗東芸術文化会館さきら小ホール


取材・文:松原美保(兵庫県宝塚市立小浜小学校)
写真提供:滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター

開演前から始まる子どもたちとのかかわり

2026年2月1日(日)。滋賀県にある栗東芸術文化会館さきら小ホールには、開演前から子どもたちの楽しそうな声が響いていました。客席のマットの上に置かれた小物打楽器に触って音を確かめる子どもたちの姿。そのサポートは滋賀大学教育学部の学生ボランティアのみなさん。開演前に心地よい音が響き、コンサート会場の雰囲気を和らげていました。

たくさんのホールがある中、この会場が選ばれたのは、固定の客席がなく、半円形のフラットな空間で、可動の椅子や床にマットを敷いて自由に客席を構成できるためです。車椅子やバギーでそのまま入ることもできます。まさに、子どもたちと演奏者が近く、生の音を体で感じられる体験型のコンサートにぴったりです。

このコンサートでは、前方のスクリーンにわかりやすい字幕が提示されました。その字幕は極力文字を少なくして、絵やマークで表現されています。文字での表現はひらがなが中心で、ナビゲーターがゆっくり、やわらかな声でアナウンスをしていました。「落ち着かなくなったら、外に出てもだいじょうぶ。ここにもどってきてもだいじょうぶ。気分が悪くなったら、看護士さんがいます

また、照明を少し落とすリハーサルも行われました。「コンサートでは、少し暗くなります。練習してみましょう!」「どうでしたか? 大丈夫でしたか?

続いて、子どもたちが安心して音楽を楽しめるような声がけがありました。「このコンサートは しずかにきかなくても おんがくにあわせて うたったり おどったり はねたり てびょうししたり あるいたりしてもいいコンサートです」。

こんな開演前のひと工夫で、子どもたちはリラックスして臨むことができていました。

間近で奏でられる音、打楽器のリズムでノリノリに!

そして、いよいよコンサートがはじまりました。演奏はユニークな打楽器パフォーマンスで知られるビートジャックトリオ。3人の演奏者が客席後方からカラフルな衣装で入場してきました。演奏者の賑やかなサンバのリズムに引き込まれて、会場が手拍子で盛り上がり一体になっていきます。子どもたちの間を練り歩く演奏者がノリノリの子どもの近くに行って、子どもの反応に合わせて演奏……まるで演奏者がリズムの花を咲かせていくように会場が明るく笑顔になっていきました。

プログラム
♪「どんどん増えていくメヌエット」(マリンバってどんな音?)
♪「大地に響け太鼓の鼓動」(世界の太鼓、大集合!)
♪「人生ギロギロ」(ギロ祭り!)
♪「ボディパーカッション」(みんなでリズムコーナー) 
など

おどる音、はねる音、はずむ音、ひかる音、うたう音、心の奥があったまる音……楽器や手拍子のリズムが会場の中で一つになって、空に向かってジャンプしていったようでした。最初はもじもじしていた子どもたちもリズムの波に乗って解放されて笑顔になっていく、そんなコンサートでした。打楽器の音の振動が空気や床を通して子どもたちの心を揺さぶって響き合っていて、生の音に触れる意義は大きいと改めて感じました。

子どもからの見え方、子どもの感じ方を大切に         

最後に特別ゲスト・タケオ(新倉壯朗)が登場。タケオはダウン症の即興演奏家で、唯一無二の表現者として魅力的な演奏で知られています。カラフルな衣装でジャンベを演奏しながら登場、その音に合わせて、ビートジャックトリオの3人が即興で音楽を盛り上げていきます。会場の子どもたちも打楽器を持ち、みんなで大合奏、音楽の空に向かって、体も心もジャンプしていきました。あっという間の1時間。演奏者の弾む音と笑顔が会場の人々を幸せにしていく、そんなあたたかい演奏会でした。会場の子どもたちは、心が開放され、最高の笑顔で演奏を楽しんでいました。

はじめは見られなかった子どもたちの表現や動き、家族の方々の笑顔は、コンサートを体感したからこそ得られたものだと思います。今回のように、誰もが楽しめるインクルーシブな公演を企画するには多くの工夫が必要です。センターの日頃の実践や活動をもとに考えられた内容、会場の大きさや選び方、公共交通機関からのアクセス、駐車場からの移動のしやすさ、観客への配慮やコミュニケーションなど、綿密な打ち合わせと継続的に行ってきた事業の積み重ねを通してできたものだと考えられます。

障がいのある子どもも楽しめるコンサートは、各地で開催されていますが、主催者側の視点で考えられたプログラムではなく、今回のような“子どもからの見え方、感じ方を大切にしたコンサート”はそれほど多くないと思われます。休日のひととき、この体験を持ち帰った子どもたちの心に音楽の花が咲いたように、この事業が今後も続けられることを願っています。

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